採血検体の保存条件の影響
採血した検体をそのまま冷蔵保存、室温放置した場合の影響について解説します。
※保存条件による影響は採血管、試薬の種類によりその程度が異なります。
あくまで一例として参照して下さい。
冷蔵保存の影響
・全血のまま遠心分離せずに冷蔵保存すると赤血球膜のNa+/K+ATPaseが失活します。
この酵素は赤血球内外のカリウム濃度の勾配(細胞内 > 細胞外)を保っています。
よって冷蔵すると赤血球内から漏出するためカリウムが高値となります。
・LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)のうち、LDH4とLDH5 が失活してしまいます。
室温放置の影響
・赤血球からの遊離、タンパク質の分解により、アンモニアが高値となります。
・赤血球内の酵素により分解され、グルコースが低値となります。
※血糖用採血管は解糖阻止剤を含みますが、数時間で10 mg/dL程度が分解されます。
採血後は直ちに遠心分離を
・このように項目によっては保存条件の影響を受ける場合があります。
・採血後は直ちに遠心分離して血清・血漿を分離する必要があります。
イムノクロマト法の原理
新型コロナウィルスの抗原検査・抗体検査で話題になっている、
イムノクロマト法について解説します。
イムノクロマト法とは
・抽出液などを滴下した後、15分程度で目視で判定できる簡易・迅速な検査です。
・POCT(臨床現場即時検査)として様々な項目の検査キットに利用されています。
・イムノクロマト法は抗原抗体反応と毛細管現象を組み合わせています。
・ウィルス抗原検査を例にすると、検査は以下のような流れになります。
抗原抗体反応
・ウィルス抗原と標識抗体が抗原抗体反応し、免疫複合体を形成します。
・標識抗体とは金属コロイド粒子を標識させた抗体です。
・金属コロイド粒子で抗体に色が付くため、免疫複合体を可視化することができます。
毛細管現象
・免疫複合体が毛細管現象で移動して、テストラインの捕捉抗体により補足されます。
・捕捉抗体もウィルス抗原と結合する抗体です。
・免疫複合体(標識抗体+ウィルス抗原)がテストラインで目視されます。
イムノクロマト法の判定
・イムノクロマト法では試料の状態によって毛細管現象が妨げられる場合があります。
そのため毛細管現象を確認するために、コントロールラインが設けられています。
・コントロールラインには別の捕捉抗体があり、標識抗体と結合することができます。
・毛細管現象が生じていれば、コントロールラインで標識抗体が捕捉されるため、
標識抗体がコントロールラインで可視化されます。
つまり、イムノクロマト法での結果判定は以下の通りになります。
陽性:テストライン + コントロールライン
陰性:コントロールラインのみ
判定保留:テストラインのみ or ラインなし
イムノクロマト法で検査できる項目
感染症
・新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)抗原・抗体、インフルエンザウィルス抗原など
その他
・妊娠検査薬(hCG)、心筋マーカー(トロポニンI・T)、前立腺癌マーカー(PSA)など
採血管に使用する抗凝固剤
採血管に使用する抗凝固剤を、対象とする検体の種類ごとに解説します。
※各項目で使用する抗凝固剤は施設によって違いがあります。
あくまで一例としてご参照下さい。
臨床検査で使用する抗凝固剤の種類
・採血管に使用する抗凝固剤は、作用機序で大別すると2種類あります。
EDTA、クエン酸Na、フッ化Na
・血液の凝固に必要なカルシウムイオンをキレートして抗凝固作用を発揮します。
・フッ化Naはグルコース分解を抑える解糖阻止剤としての役割も果たします。
ヘパリン
・血液凝固を抑えるアンチトロンビンを活性化して抗凝固作用を発揮します。
・ヘパリンはPCR反応を阻害するため、PCRを用いる遺伝子検査には使用できません。
検体の種類による抗凝固剤の使い分け
全血
・採血した血液をそのまま検査対象とします。
・ただし、血液は採血後に凝固してしまうため、
全血を使用する際は、検査項目に応じた抗凝固剤が用いられます。
・EDTA-2K:赤血球などの血球数の検査
・バランスヘパリン:血液ガス
・3.8%クエン酸Na:赤血球沈降速度 (血沈) ※血液:クエン酸Na = 4:1
血漿
・採血した血液を遠心分離し、得られた血漿を検査対象とします。
・全血と同様、抗凝固剤が含まれた採血管が使用されます。
・血清と異なり、血液を凝固させないため、凝固因子が含まれています。
そのため凝固に関する項目の検査に使用されます。
・また一部のホルモン項目の検査にも使用されます。
・3.2%クエン酸Na:APTT、PT ※血液:クエン酸Na = 9:1
・EDTA-2Na:BNP、コルチゾール、ACTH、アルドステロンなど
血球
・採血した血液を遠心分離し、得られた血球成分を検査対象とします。
・全血と同様、抗凝固剤が含まれた採血管が使用されます。
・細胞表面の抗原、細胞内の遺伝子、細胞の機能の検査に使用されます。
・EDTA-2K:細胞表面マーカー、mRNA定量、遺伝子変異解析など
・ヘパリン-Na:染色体検査、リンパ球幼若化試験など
採血による凝固の影響
採血管内での凝固を防ぐために、血算用などの採血管には、抗凝固剤が入っています。
しかし、採血後の転倒混和が不十分だと、採血管内で凝固してしまう場合があります。
凝固するとどんな影響があるの?
血球成分が低くなってしまう
・血液が凝固すると血餅という塊ができ、血球成分がその塊に絡めとられます。
そのため血小板数や赤血球数が低くなってしまいます。
・臨床症状に合わない血小板数や赤血球数の低下が生じた際には、
血液の凝固を疑い、再採血による確認が有効な場合があります。
APTTが短縮してしまう
・採血管内で血液が凝固すると、APTTが短縮する場合があります。
・臨床症状に合わないAPTTの短縮が生じた際には、
血液の凝固を疑い、再採血による確認が有効な場合があります。
PCR検査の原理
新型コロナウィルスで話題になっているPCR検査の原理について解説します。
※概要を掴めるよう細部を削り、簡易化している点ご了承下さい。
PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)
・PCRとは特定のDNA領域のみを増やすための反応です。
・温度を上下させ、プライマーとDNAポリメラーゼを用い、目的のDNAを増やします。
・大きく分けて、変性、アニーリング、伸長の3段階からなります。
変性
・温度を上げて、熱によりDNAの2本鎖をほどき、DNAを1本鎖に変性させる段階です。
・簡単に書くと、2本鎖(=)を1本鎖(- -)にする段階です。
アニーリング
・温度を下げて、プライマーを各1本鎖DNAに結合させる段階です。
・プライマーとは増やしたいDNA領域と相補的なDNA断片です。
・増やしたいDNA領域にプライマーが相補的に結合します。
伸長
・温度を上げて、DNAポリメラーゼによりDNA鎖が伸長される段階です。
・プライマーを出発点として、DNA鎖が伸長し、DNA2本鎖が再び形成されます。
・簡単に書くと、1本鎖DNA(ー ー)を2本鎖DNA(= =)にする段階です。
・以上をまとめて簡単に書くと、以下のようになります。
① DNA2本鎖を変性させ1本鎖DNAにほどき、② 再び2本鎖DNAを形成する
= → ① - - → ② = =
PCRではこの工程を繰り返して、増やしたいDNA領域を増やすことで、
目的の遺伝子を定量したり、目的の遺伝子が存在するかを定性することができます。
PCRを用いる検査項目
感染症
・ 微生物の核酸定量やジェノタイピングなど、微生物の核酸を定量・検出する検査です。
・ウィルスには核酸の種類によりDNAウィルスとRNAウィルスが存在するため、
RNAウィルスの場合は逆転写反応(RT)でRNAをDNAへ逆転写する工程が加わります。
・また、核酸定量する場合には、PCRを応用したリアルタイムPCRで検査されます。
・新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)はRNAウィルスのため、
悪性腫瘍
・造血器腫瘍などではmRNA量の定量など核酸を定量する場合もありますが、
固形腫瘍などは遺伝子変異解析で遺伝子変異の有無を定性する場合が多いです。