生化学検査用採血管が影響を及ぼす項目
血清を分離する目的で生化学検査用採血管を使用しますが、
検査項目によってはその採血管成分が影響を及ぼす場合があります。
今回は生化学検査用採血管が影響を及ぼす項目を採血管成分ごとに解説します。
ゴム栓
・ゴム栓には亜鉛が含まれるため、亜鉛の混入が生じてしまいます。
亜鉛を測定する際は金属専用の採血管を使用する必要があります。
凝固促進剤
・採血後の転倒混和が不十分だったり、遠心条件を守らなかった場合、
凝固促進剤によりマイクロフィブリンが生じる場合があります。
・マイクロフィブリンが生じると、免疫測定法において偽陽性となる場合があります。
特に高感度測定試薬であるHBs抗原の偽陽性化が知られています。
・対応として再遠心をすることでマイクロフィブリンがチューブ底に沈み、
結果が陰性化する場合があります。
・通常はマイクロフィブリンは目視で確認できませんが、
冷蔵後・凍結融解後にマイクロフィブリンが析出する場合があります。
そのため、冷蔵後・凍結融解後は遠心してから測定することが好ましいです。
分離剤
・分離剤は特定の薬剤を吸着する場合があります。
血中薬物濃度をする際は、分離剤を含まない採血管を使用する必要があります。
EDTA依存性偽性血小板減少症
血算用採血管には抗凝固剤としてEDTA-2Kが含まれていますが、
稀にEDTAにより血小板凝集するEDTA依存性偽性血小板減少症が生じる場合があります。
EDTA依存性偽性血小板減少症
機序
・採血管内でEDTAにより血小板が凝集してしまい、血小板数が偽低値化する現象です。
・EDTAによって血小板表面の抗原の構造が変化してしまい、
免疫グロブリンが血小板と結合し、血小板が凝集してしまうと考えられています。
・血球分析装置では通常は血球の大きさで血球を計り分けているため、
血小板凝集塊は血小板数としてカウントされず、血小板が偽低値化してしまいます。
対応
・対応としては以下の方法が知られています。
・EDTA以外の抗凝固剤を含む採血管(クエン酸Naの凝固検査用採血管など)を使用
・血算用採血管に抗生物質のカナマイシン又はコリマイシンを添加する
・血算用採血管に硫酸マグネシウムを添加する
・ボルテックスで撹拌して物理的に凝集塊をほどく
・臨床症状に合わない血小板数低下が認められ、再採血しても解消されない場合、
顕微鏡による血小板凝集塊の確認が有効となる場合があります。
凝固検査に量不足・赤血球増加が与える影響
凝固検査は血液と抗凝固剤を一定比率で混合する必要があり、
検体量や赤血球数の影響を受けます。
今回は、凝固検査の量不足・赤血球数の影響について解説します。
量不足の影響
・量不足となる場合、血漿に占める抗凝固剤の割合が多くなってしまい、
検査時に添加する塩化カルシウムが抗凝固剤によってキレートされてしまいます。
そのため凝固時間は延長してしまいます。
・量不足で規定量に満たない場合、規定量を再採血する必要があります。
赤血球数の増加の影響
・赤血球数が増加する場合、血液に含まれる血漿が少なくなってしまい、
そのため凝固時間は延長してしまいます。
・ヘマトクリット値が55%を超えると、クエン酸Na量の調節が必要とされています。
血清と血漿の違い
臨床検査に用いる検体として、血清と血漿があります。
血清と血漿の違いについて解説します。
血液の構成成分
・血液は血漿成分と血球成分から構成されています。
血液を凝固させ血漿成分から凝固因子を取り除いたのが血清成分になります。
・つまり血液 = 血球 + 血漿からなり、血漿 = 血清 +凝固因子からなります。
血清
・血液を凝固させた後、遠心分離して血清が得られます。
凝固させるので血清にはフィブリノゲンは含まれていません。
長所
・抗抗凝固剤を含まないため、測定項目への影響を考慮しなくてもよい。
短所
・凝固過程で赤血球や血小板の内容物が漏出するため、
血漿カリウムと比べて、血清カリウム、アンモニアの濃度が若干高くなります。
・凝固させる必要があるので、凝固するまで時間がかかり、検査まで時間を要します。
血漿
・抗凝固剤で凝固を抑えた後、遠心分離して血漿が得られます。
長所
・血漿はフィブリノゲンを含むため、APTT、PTなど凝固検査に用いられます。
・凝固を待たなくてよいため、採血後すぐに血漿を得ることができます。
そのため、血漿検体は緊急検査用検体として用いられる場合があります。
・遠心条件を揃えれば、白血球がバフィーコートとして得られます。
そのため血漿は細胞表面マーカー、リンパ球幼若化試験に用いられます。
短所
・蛋白分画でフィブリノゲンがγ分画に泳動され、M蛋白の診断の妨げになります。
・抗凝固剤がEDTAの場合、ALPの酵素活性を阻害するため、ALPが偽低値化します。
ELISA(酵素結合免疫吸着法)の原理
新型コロナウィルスの抗体検査で使用されるELISAについて解説します。
酵素免疫測定法(EIA)
・酵素免疫測定法とは抗原抗体反応を利用する免疫測定法(Immuno Assay)の一種で、
Enzyme Immuno Assay(EIA)と呼ばれています。
・目的とする抗原or抗体を、酵素標識抗体と結合させ、
酵素の発色基質を加え、その発色を測定して目的とする抗原or抗体を定量します。
・放射性同位体を標識抗体に用いるRadio Immuno Assay(RIA)に対し、
EIAは酵素を標識抗体に用いており、標識方法の違いを区別するための呼称です。
酵素結合免疫吸着法(ELISA)
・酵素結合免疫吸着法はEnzyme Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)のことで、
主に96ウェルプレートのウェル底に捕捉用の抗体or抗原を固相化したEIAを指します。
・ELISAには直接法、間接法、競合法、サンドイッチ法など幾つか種類があります。
・新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の抗体検査に利用されている間接法、
その他の検査でよく利用されるサンドイッチ法について解説します。
※あくまで現時点で調べた限りであり、今後、他法も利用される可能性があります。
間接法
・ウェル底の固相化抗原で試料中の抗SARS-CoV-2抗体を捕らえた後、
その抗体に標識抗体を結合させ、発色基質を加えて測定します。
サンドイッチ法
・サンドイッチ法という名称は、試料中の目的とする抗原or抗体を、
ウェル底の固相化抗体と、添加する酵素標識抗体で挟み込むことに由来します。
・ウェル底の固相化抗体(一次抗体)に試料中の抗原or抗体が結合し、
その抗原に酵素標識抗体(二次抗体)を結合させ、発色基質を加えて測定します。
イムノクロマト法との比較
・イムノクロマト法は簡易・迅速に検査できますが1キットで1検体のため、
多くの検体を検査できず、また陽性・陰性を定性することしか出来ません。
・ELISAでは主に96ウェルプレートを用いた場合、1キットで96検体を測定できるため、
多くの検体を一度に測定でき、また抗体濃度を定量することができます。